別ページにて、分布定数回路の特性を解析してきました。ここでは、回路内に損失が発生しない無損失回路について取り上げます。


無損失条件の一般解
分布定数回路で成立する微分方程式は以下のとおりです。
$$ – \frac{\partial v(x,t)}{\partial x} = Ri(x,t) + L \frac{\partial i(x,t)}{\partial t}$$
$$ – \frac{\partial i(x,t)}{\partial x} = Gv(x,t) + C \frac{\partial v(x,t)}{\partial t}$$
無損失であるということは、R=0、G=0が成立するので次の式を得られます。
$$ – \frac{\partial v(x,t)}{\partial x} = L \frac{\partial i(x,t)}{\partial t}$$
$$ – \frac{\partial i(x,t)}{\partial x} = C \frac{\partial v(x,t)}{\partial t}$$
これらの式をさらに整理すると次の式を得られます。
$$ \frac{\partial^2 v(x,t)}{\partial x^2} = -L \frac{\partial}{\partial t} (\frac{\partial i(x,t)}{\partial x}) = LC\frac{\partial}{\partial t} (\frac{\partial v(x,t)}{\partial t})=LC\frac{\partial^2 v(x,t)}{\partial t^2} $$
$$ \frac{\partial^2 i(x,t)}{\partial x^2} = -C \frac{\partial}{\partial t} (\frac{\partial v(x,t)}{\partial x}) = LC\frac{\partial}{\partial t} (\frac{\partial i(x,t)}{\partial t})=LC\frac{\partial^2 i(x,t)}{\partial t^2} $$
実はこの形式は、波動方程式と全く同じ形をとっています。波動方程式は下の式で表されます。
$$ \frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = c^2 \frac{\partial^2 u}{\partial x^2} $$
波動方程式の解は、ダランベールの解として知られており、次の形で表現できます。
$$u(x,t) = h(x-ct) + g(x+ct)$$
ここで、h,gは任意の関数を取ることができます。そこで、この解について、分布定数回路に応用することを考えます。電圧の式に適用すると次の式を得られます。
$$v(x,t) = v_f(x-\frac{t}{\sqrt{LC}}) + v_b(x+\frac{t}{\sqrt{LC}})$$
電流に対しても同様の議論ができるため次の形式になります。
$$i(x,t) = i_f(x-\frac{t}{\sqrt{LC}}) + i_b(x+\frac{t}{\sqrt{LC}})$$
ただし、電圧と電流には特性インピーダンスによる制約があるため、次の式となります。
$$i(x,t) =\frac{1}{Z_0} (v_f(x-\frac{t}{\sqrt{LC}}) + v_b(x+\frac{t}{\sqrt{LC}}))$$
※電流の符号について
ダランベールの解は前進波と後進波と考えることができます(後述)。電圧は波の向きと無関係であるため、前進波と後進波の線形和で表すことができます。電流は波の向きと関係があり、前進波と後進波で向きが反転します。そのため、後進波の係数はマイナスになります。
ダランベールの解の可視化
先ほどの解では動作イメージがつかないので、ダランベールの解を可視化します。ここでは、以下のようにvf, vbを与えます。
$$v_f (x,t) = e^{0.5(x-2t)^2}$$
$$v_b (x,t) = e^{0.5(x+2t)^2}$$
その結果、観測される電圧は次の式で表されます。
$$v(x,t) = e^{0.5(x-2t)^2} + e^{0.5(x+2t)^2}$$
これらの関係をプロットすると図1,2,3のとおりになります。



横軸が位置、縦軸が電圧を示します。さらに、赤線がvb(x,t)、青線がvf(x,t)、黄線がv(x,t)を示します。図1はt=0s、図2はt=0.5s、図3はt=1sの時の電圧分布を示します。
図1~3から観測されるとおり、青色の山は正の方向に進んでいき、赤色の山は負の方向に進んでいきます。つまり、vf(x,t)は前に進む前進波、vb(x,t)は後ろに進む後進波と解釈することができます。なお、観測される電圧はこれらの波の合成となります。
波の伝搬速度
波動方程式において、cは位相速度に相当します。分布定数回路において\(c= \frac{1}{\sqrt{LC}}\)となっています。そのため、分布定数回路の位相速度は1/√LCです。ここで、位相速度を計算してみます。
架空送電線の特性は次の式で表されます。
$$L = \frac{\mu_0}{2 \pi} ln(\frac{2h}{r})$$
$$C = \frac{2 \pi \epsilon_0}{ ln(\frac{2h}{r})}$$
この式を用いて位相速度を導出すると次のとおりです。
$$v = \frac{1}{\sqrt{LC}} = \frac{1}{\sqrt{\frac{\mu_0}{2 \pi} ln(\frac{2h}{r}) \times \frac{2 \pi \epsilon_0}{ ln(\frac{2h}{r})}}} = \frac{1}{\sqrt{\mu_0 \epsilon_0}} = c_0$$
従って、前述の特性を持つ架空送電線においては、光速で伝搬することが分かります。しかしながら、電線の特性が変われば誘電率などにも変化が生じるため、光速より遅く伝搬することになります。
まとめ
このページでは、無損失回路を題材に分布定数回路を考えました。ポイントは以下のとおりです。
- 無損失回路はR=0, G=0の回路のことを指します。
- 無損失回路の場合は、波動方程式と一致し、その解は前進波と後進波に分けることができます。
- 電気の波の伝搬はおよそ光速度です。しかし、電線の特性が変われば光速度より遅く伝搬することも考えられます。
